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松山地方裁判所西条支部 昭和49年(ワ)160号 判決 1980年1月18日

原告

加地年子

ほか五名

被告

大昭運輸有限会社

主文

一  被告らは、各自、原告加地年子に対し金一四四二万六三三九円、原告加地公男、同加地光憲、同加地延英に対しそれぞれ金一五四万二八三一円、原告加地輝一、同加地トヨに対しそれぞれ金五〇万円及びいずれも右各金員に対する(但し、原告加地年子についてはうち金一四一二万六三三九円に対する)昭和五〇年一月一一日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告加地年子、同加地公男、同加地光憲、同加地延英のその余の各請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は、これを二〇分し、その五を原告加地年子の、その各一を原告加地公男、同加地光憲、同加地延英の各負担とし、その余を被告らの負担とする。

四  この判決は、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告ら

1  被告らは、各自、原告加地年子に対し金二二八五万七〇〇〇円、同加地公男、同加地光憲、同加地延英に対し各金三一〇万円宛、同加地輝一、同加地トヨに対し各金五〇万円宛及びこれに対する(但し、原告加地年子についてはうち金二二五五万七〇〇〇円に対する)本訴状送達(最終日)の翌日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行の宣言

二  被告ら

1  原告らの請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  本件事故の発生

被告青木正則(以下被告青木という。)は、昭和四七年一二月一二日午前六時一五分ころ、愛媛県宇摩郡土居町大字津根一七七三番地先国道一一号線上において、大型貨物自動車を運転して同所を西進中、折柄その前方を同方向に進行していた訴外加地芳信(以下芳信という。)運転、原告加地年子(以下原告年子という。他の原告についても同様に略称する。)同乗の農耕作業用自動車に衝突した。

2  交通事故の結果

(一) 本件事故により、芳信は頭部外傷、脳浮腫、右側頭骨骨折の傷害を受けて右同日(昭和四七年一二月一二日)死亡した。

(二) 同様に、原告年子は頭部外傷、脾臓破裂、左両前腕骨骨折、左第九、第一一肋骨骨折の重傷を蒙り、血清肝炎を併発し、右同日から昭和四八年八月七日まで約八か月間入院し、退院後昭和四九年五月一六日まで通院した。

(三) 原告年子の右症状は昭和四八年一一月五日固定し、同原告は自賠法所定の五級に該当する後遺症を負つた。

3  被告らの責任

(一)被告大昭運送有限会社(以下、被告会社という。)は、右大型貨物自動車の所有者その他右自動車を使用する権利を有する者で、自己のため右自動車を運行の用に供していたものであるから、自賠法三条により、本件事故により生じた人的損害を賠償する責任がある。

(二) また、被告青木は被告会社の従業員であり、本件事故は被告会社の事業の執行に関し生じたものであるから、被告会社は被告青木の後記過失により生じた物的損害を賠償する責任がある。

(三) 被告青木は、当時小雨と霧のため前方の見とおしが困難な状況であつたのに、減速することなく漫然時速六〇キロメートルで進行した過失により、被害車を前方約一四メートルに接近してはじめて発見し、急制動したが及ばず、自車前部を被害車に衝突させたものであつて、民法七〇九条により本件事故による全損害を賠償する責任がある。

4  損害

(一) 芳信の損害 合計金一二八二万六〇〇〇円

(1) 逸失利益 金九六五万三〇〇〇円

芳信は、死亡当時五二歳で、自家農業のほかミシンの外交販売に従事し、年収一四六万五一一五円を得ていたので、生活費を四〇パーセントとし、年利五パーセントのホフマン式計算により逸失利益を算定すると、金九六五万三〇〇〇円となる。

(2) 破損農機代 金一七万三〇〇〇円

(3) 慰藉料 金三〇〇万円

(二) 原告年子の損害 合計金二一五三万二〇〇〇円

(1) 休業損失 金八五万七〇〇〇円

原告年子は事故当時四五歳で夫芳信とともに自家農業に従事していた主婦であるが、平均一か月金九万五三〇〇円の収入を得ていたとして、九か月間休業したので、その間の逸失利益相当分は金八五万七〇〇〇円となる。

(2) 後遺症による逸失利益 金一二二五万八〇〇〇円

前記症状固定時、原告年子は四六歳で、右平均月収を年収に換算し、労働能力喪失率を七九パーセントとして、就労可能年数間の逸失利益を年五パーセントの割合によるホフマン式計算方法により算出すると、金一二二五万八〇〇〇円となる。

(3) 慰藉料 金六二八万円

原告年子の慰藉料としては、通院入院中の慰藉料分金一五六万円と後遺症慰藉料分四七二万円の合計金六二八万円が相当である。

(4) 治療費及びバス代 金一六四万五〇〇〇円

原告年子は入院中金一六〇万三五〇〇円の治療費と通院中金三万三〇〇〇円の治療費の合計金一六三万六五〇〇円を要し、別に通院中のバス代として四七回分金九四〇〇円を要した。

(5) 入院雑費及び付添費 金一九万二〇〇〇円

(6) 弁護士費用 金三〇万円

原告らは本件訴訟の追行を弁護士に委任したが、その弁護士費用としては金三〇万円が相当であるところ、その弁護士費用は原告年子が負担した。

(三) 原告公男、同光憲、同延英の損害

慰藉料 各金二五万円

右原告三名は芳信の子であるから、その慰藉料としては各金二五万円宛が相当である。

(四) 原告輝一、同トヨの損害

慰藉料 各金五〇万円

右原告両名は芳信の両親であるから、その慰藉料としては各金五〇万円宛が相当である。

(五) 損害の填補

原告年子は後遺症に基づく自賠責保険金二九五万円を受領したので、同原告の前記損害からこれを控除する。

(六) 芳信の損害賠償請求権の相続

芳信死亡により、原告年子は妻として、原告公男、同光憲、同廷英は子として同人を相続したので芳信の損害金のうち金四二七万五〇〇〇円が原告年子の、うち金二八五万円宛がその余の右原告らの相続による取得分となる。

(七) 以上により、原告年子は、その固有の損害金二一五三万二〇〇〇円から前記(五)の損害填補金二九五万円を差引いた残金一八五八万二〇〇〇円に芳信の相続分金四二七万五〇〇〇円を加算した金二二八五万七〇〇〇円の損害賠償請求権を有する。

原告公男、同光憲、同延英は、各人、固有の損害金二五万円に芳信の相続分金二八五万円を加算した金三一〇万円宛の損害賠償請求権を有する。

原告輝一、同トヨは、各人、固有の損害金五〇万円宛の損害賠償請求権を有する。

5  よつて、原告らは被告に対し、各自、右各損害金とこれに対する(但し、原告年子については、弁護士費用を除いた金二二五五万七〇〇〇円に対する)訴状送達(最終日)の翌日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  被告会社

(一) 請求原因1の事実は認める。

(二) 同2の(一)の事実は認め、同(二)の事実のうち、原告年子が受傷して入院及び通院したことは認めるが、その余は不知、同(三)の事実は不知。

(三) 同3の(一)の事実は、一旦は認めたが、右自白は真実に反し錯誤に基づくものであるからこれを撤回し、右事実を否認する。(右自白の撤回につき原告らは異議を述べた。)被告青木が運転していた大型貨物自動車は訴外三友倉庫運送株式会社が運行の用に供していたものである。すなわち、被告青木は右訴外会社が雇傭し、同会社が右自動車を管理し、これを運行して利益をあげていたものである。ただ同会社が自動車運送事業の免許を取得できないため、右免許を有している被告会社がその天山営業所の営業を昭和四四年ごろ右訴外会社に譲渡し、同会社が勝手に被告会社天山営業所と名乗つて営業していたものである。

同3の(二)の事実は否認する。

(四) 同4の(一)ないし(四)、(六)の事実中、原告年子が事故当時四五歳であることは認めるが、その余の事実は不知、損害額については争う。同(五)の事実は認める。

2  被告青木

(一) 請求原因1の事実は認める。

(二) 同2の(二)の事実中入院及び通院したことは認めるがその期間は不知、同(三)の事実は不知。

(三) 同3の(三)の事実については、被告青木の過失と芳信の過失が競合して本件事故が発生したものである。

(四) 同4の(一)ないし(四)、(六)の事実中、芳信及び原告年子の事故当時の年齢、職業、原告らの身分関係は認めるが、その余の事実は不知、損害額については争う。同(五)の事実は認める。

三  抗弁

1  過失相殺の主張

事故当時、芳信運転の農耕作業用自動車は道路運送車両の保安基準で定められた後部反射器及び尾燈の設備がなかつた。そのため、当時の、夜間で見とおし困難な気象条件のもとで、被告青木は右作業用自動車に気付くのが遅れ、本件事故に至つたもので、この点芳信にも本件事故に対する過失があるから、原告らの損害額の算定に当つても相当額の過失相殺がなさるべきである。

2  損害の填補

原告らの自認する後遺症保険金の他に、原告らに対し次の支払がなされた。

(一) 芳信に対する死亡による自賠責保険金五〇〇万円の支払

(二) 前告年子に対する傷害による自賠責保険金五〇万円の支払

(三) 被告会社による原告年子に対する治療費金二九万〇六九三円の支払

四  抗弁に対する認否

1  抗弁1の事実中、後部反射器を備えつけていなかつたことは認めるが、このことが本件事故につながる過失には該当しない。その余の過失相殺の主張は否認する。

2  同2の事実は認める。

第三証拠〔略〕

理由

一  本件事故の発生

請求原因1の事実(本件事故の発生)は当事者間に争いがない。

二  本件事故の結果

1  請求原因2の(一)の事実(芳信の受傷と死亡)は、被告会社に対する関係では当事者間に争いがなく、被告青木に対する関係では同被告において明らかに争わないからこれを自白したものとみなす。

2  成立に争いのない甲第四号証の二、第八号証の一、二、被告会社に対する関係では成立につき争いがない甲第一三、第一四号証によれば、原告年子が本件事故により頸部外傷、脾臓破裂、左両前腕骨骨折、第九、第一一、肋骨骨折の傷害を受け、かつ血清肝炎を併発したことが認められ、これに反する証拠はない(なお、被告青木に対する関係では、右事実は同被告において明らかに争わないからこれを自白したものとみなす。)。右傷害により、原告年子が入院し、退院後通院したことは当事者間に争いがないが、前記甲第一四号証(被告青木に対する関係では弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる。)及び原告年子本人尋問の結果とこれにより真正に成立したものと認められる甲第一七号証によれば、右入院期間は昭和四七年一二月一二日から昭和四八年八月七日までの二三九日間であり、同月八日から同年一一月五日まで実日数二九日間通院し、その後も昭和四九年五月一六日まで実日数一六日間通院したことが認められ、これに反する証拠はない。

3  前記甲第一四号証によれば、原告年子の症状は昭和四八年一一月五日固定したが、脾臓摘出、左上肢に仮関節を残し著しい運動障害を残す等の後遺症があることが認められ、これに反する証拠はない。右後遺症のうち前者の脾臓摘出は少くとも自賠法施行令別表に定める等級(以下後遺症等級という。)の第七級第五号に該当するものと認めるのが相当であり、また後者の障害も同じく第七級第九号に該当することは明らかであるから、これらの後遺症は、同施行令第二条一項ハの規定によれば、自賠責保険金の支払に関しては、右等級より二級上位の第五級相当の後遺症として扱われることとなる。

三  被告らの責任

1  被告会社の自賠法三条に基づく責任

被告会社が自己のため本件大型貨物自動車を運行の用に供していたことにつき、被告会社は一旦右事実を認めたが、その後右自白が真実に反し錯誤によるものであることを理由に右自白を撤回しており、これに対して原告らは異議を述べるので、右自白の撤回の成否について検討する。

この点につき、被告会社は、昭和四四年ごろ自動車運送事業の免許を取得できない訴外三友倉庫運送株式会社(以下三友倉庫という。)に被告会社天山営業所の営業を譲渡したので、真実は、右三友倉庫が被告青木を雇傭し、同会社が右自動車を管理し運行して利益をあげていたものであると主張し、被告会社代表者はこれに副う供述をするが、右被告会社代表者の供述によつて真正に成立したものと認められる丙第一号証によれば、被告会社天山営業所の一部営業譲渡契約は本件事故の後である昭和四八年一一月一八日付でなされたことが認められ、また成立に争いのない甲第五、第六号証、第八号証の二、並びに証人青木美枝子の証言によれば、被告青木は、本件事故当時、被告会社に雇われ、被告会社使用の本件大型貨物自動車を運転して被告会社の勤務に従事していたことが認められ、これに反する前記被告会社代表者の供述は直ちに措信できない。(なお、被告会社代表者は、右営業譲渡以前においても、三友倉庫が被告会社天山営業所の名義で同営業所を運営しており、同営業所は事実上被告会社の支配下になかつた旨供述するが、右供述によれば、三友倉庫は、被告会社承認のもとに、その営業免許を利用して、被告会社天山営業所の名義で運送業を営んでいたと認められるから、被告会社は、免許貸与者として、これを使用する三友倉庫に対しその自動車の運行を管理支配すべき責務があり、現実に右管理支配関係がないということをもつてその責を免れることはできない。)そうすると、被告会社が運行供用者であるとの事実についての自白は、真実に反するものとは認めがたく、また右自白が錯誤によるとも認めがたいから、右自白の撤回は許されず、結局右事実については自白が成立することとなる。

右事実によれば、被告会社は自賠法三条に基づき本件事故により生じた人的損害を賠償すべき責任がある。

2  被告会社の使用者責任

前記認定のとおり、被告青木が被告会社に雇傭されていたこと、被告青木が被告会社の勤務に従事中に本件事故を起したことが認められるから、右事実によれば、後記のとおり被告青木の本件事故に対する過失が肯認される以上、被告会社は被告青木の使用者として被告青木の惹起した本件事故による物的損害についても賠償の責を負担するものといわざるをえない。

3  被告青木の責任

請求原因3の(三)の事実(被告青木の過失の存在)は、被告青木において明らかに争わないからこれを自白したものとみなす。右事実によれば、被告青木は民法七〇九条により本件事故による全損害を賠償すべき責任がある。

四  過失相殺

本件事故当時、芳信運転の農耕作業用自動車が道路運送車両の保安基準で定められた後部反射器を備えつけていなかつたことは、当事者間に争いがない。被告らは尾燈の設備がなかつた点をも捉えて芳信の過失を主張するが、道路交通法五二条一項、同法施行令一八条一項一号に基づく道路運送車両の保安基準三七条によれば、尾燈を備えるべき自動車は最高速度二〇キロメートル毎時未満の軽自動車及び小型特殊自動車を除くその余の自動車であると規定され、道路運送車両法施行規則二条に基づく別表第一によれば、農耕作業用自動車のうち、自動車の大きさが長さ四・七メートル以下、幅一・七メートル以下、高さ二・〇メートル以下で最高速度一五キロメートル毎時以下のものは、小型特殊自動車と規定されているから、結局、農耕作業用自動車については、右小型特殊自動車に該当しないもののみ尾燈を備えるべきことが義務づけられていることになるが、本件全証拠によるも、芳信運転の農耕作業用自動車が右の尾燈を備えるべき自動車であると認めることができないから、この点の過失の主張は採用できない。

ところで、道路運送車両の保安基準三八条二号によれば、後部反射器は、夜間後方一五〇メートルの距離から前照燈で照射した場合にその反射光を照射位置から確認できるものであることを要する旨規定されているので、前記のとおり、本件事故当時は、小雨と霧のため前方の見とおしが困難な状況にあつたことに加えて、前記甲第八号証の二によれば当時夜間であつたというのであるから、このような状況のもとでは、芳信の運転する農耕作業用自動車に後部反射器が備えつけてあつたとしたら、被告青木において右作業用自動車をより早期に発見できたであろうことは容易に推測されるところであつて、右設備がなかつた点において芳信の過失は免れない。しかしながら、成立に争いのない甲第六号証によれば、被告青木は前記見とおしの悪い状況においても前照燈で前方約九〇メートルは見とおすことができたというのであるから、前記被告青木の過失の内容と対比するとき、その過失割合は、被告青木が八割であるのに対して芳信のそれは二割と認定するのが相当である。

なお、後記のとおり、右農耕作業用自動車の所有者は芳信であるが、原告年子は芳信とともに農業に従事していたのであるから、右自動車を必要時利用していたことは容易に推測され、右利用関係に加え、原告年子と芳信との身分関係をも考慮すれば、右自動車の同乗者である原告年子についても、運転者である芳信の前記過失を斟酌して損害額を算定するのが相当である。

五  損害

1  芳信の損害

(一)  逸失利益

成立に争いのない甲第一一号証、第一六号証、原告加地年子本人尋問の結果とこれにより真正に成立したと認められる甲第一〇号証によれば、芳信は死亡当時五二才で、妻である原告年子とともに農業を自営するほか、ミシン外交員として訴外ブラザーミシン販売株式会社高松支店に勤務し、さらに相当の恩給を得ていたこと、右農業収入は昭和四七年一年間で課税の基礎となる収入として金九四万八三四三円あり、このうち芳信と原告年子の寄与の割合は四対六であるから、芳信の収入分としては金三七万九三三七円(円未満切捨、以下同様。)となること、右ミシン外交員としての収入は本件事故前三か月間で合計金二六万五四七四円であるから、年収金一〇六万一八九二円と算定されること、従つて農業収入とミシン外交員としての収入の合計は年収金一四四万一二二九円となるから、これに恩給による収入を加えると、少くとも原告主張の金一四六万五一一五円の年収があつたものと認められ、これに反する証拠はない。そうすると、原告はその職種に照らし、今後六七歳までの一五年間右同程度の収入をあげることができたものと推定され、その間の生活費は収入の四割とし、これに年五分の割合による中間利息を控除して、ホフマン式計算方法により算出すると、次のとおりこの間の逸失利益は金九六五万二一七七円と認められる。

146万5115円×(1-0.4)生活費控除分×10,980=965万2177円

(二)  破損農機代

成立に争いのない甲第二号証、原告年子本人尋問の結果とこれにより真正に成立したものと認められる甲第九号証によれば、本件事故により芳信所有の被害車は大破されたこと、被害車は昭和四五年九月一〇日当時金一七万三〇〇〇円であつたが、昭和四七年一二月当時の下取見積額は金一二万円であることが認められ、これに反する証拠はない。そうすると、本件事故当時金一二万円相当の被害車が大破されたことにより芳信は同額の損害を蒙つた。

(三)  慰藉料

本件事故により死亡した芳信の慰藉料としては、本件事故の態様、前記芳信と被告青木の過失割合等一切の事情を斟酌すると、原告らの主張どおり金三〇〇万円をもつて相当と認める。

(四)  合計金一二七七万二一七七円

2  原告年子の損害

(一)  休業損失

原告年子が本件事故当時四五才であつたことは当事者間に争いがなく、前記のとおり、同原告は、夫芳信とともに農業に従事し、その昭和四七年度の農業収入は課税の基礎となるものとして金九四万八三四三円あり、このうち原告年子の寄与の割合は六割であるから、原告年子の収入分としては金五六万九〇〇五円となる。しかしながら、原告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、原告年子は、主婦として、夫芳信を含め五人家族の家事労働に従事していたことが認められるので、右家事労働に対する財産的評価としては、女子労働者の平均賃金を基礎にするのを相当とするところ、昭和四七年賃金センサス第一巻第二表産業計企業規模計学歴計の年齢別平均給与額によれば、年令四五歳の女子の平均給与額は年額金七三万五二〇〇円であるから、これに前記農業収入を考慮すると、原告年子の収入としては、右平均給与額全額に前記農業収入の二分の一を加算した年額金一〇一万九七〇二円と算定するのを相当と認める。そして、原告年子は前記のとおり約八か月間入院していたからその間休業したといえるうえ、退院後前記症状固定に至るまでの約三か月間は後記後遺症による労働能力喪失率に鑑み、相当程度の休業を余儀なくされたものと推測されるので、総じて九か月間休業したものとする原告年子の主張は相当である。以上により原告年子の休業による逸失利益を算出すると、次のとおり金七六万四七七六円となる。

101万9702円×9/12=76万4776円

(二)  後遺症による逸失利益

前記のとおり原告年子の症状は昭和四八年一一月五日固定し、後遺症等級五級に相当する後遺症が残存するが、右後遺症の部位、程度、原告年子の稼働内容及び労働省労働基準局長通達による労働能力喪失率表を参考にすれば、原告年子はその労働能力の七九パーセントを失つたものと推定するのが相当であるところ、前記甲第一四号証によれば原告年子は右症状固定時四五才であるから、前記労働の内容に照らし、六七歳に達するまで約二一年間就労することができたものと推定され、その間の収入は、昭和四八年賃金センサス第一巻第一表産業計企業規模計学歴計年齢計の女子労働者平均給与額が年額金八四万五三〇〇円となるから、これに前記農業収入を考慮すれば、前同様、右平均給与金額と農業収入の二分の一を加算した金一一二万九八〇二円と認めるのが相当である。そうすると、年五分の割合による中間利息を控除してホフマン式計算方法により後遺症による逸失利益を算出すると、次のとおり金一二五八万七五四二円と認められるから、このうち金一二二五万八〇〇〇円相当の利益を喪失したとする原告年子の主張は理由がある。

112万9802円×0.79/喪失率×14.103/ホフマン式係数=1258万7542円

(三)  慰藉料

前記のとおり、原告年子が本件事故による傷害により約八か月間入院し、退院後も約九か月間(実日数四五日)通院したこと、後遺症等級五級に該当する後遺症があること、その他本件事故の態様、前記芳信と被告青木の過失割合等一切の事情を斟酌すれば、同原告の受けた精神的苦痛に対する慰藉料としては金六〇〇万円をもつて相当と認める。

(四)  治療費及びバス代

成立に争いのない甲第一五号証、第二〇号証によれば、昭和四七年一二月一二日から昭和四八年八月三一日までの原告年子の治療費は金一六〇万三五〇〇円となること(なお、右甲第二〇号証は右治療費の期間につきその終期を昭和四八年一一月五日と記載するが、右期間の治療日数を二四六日としているので、甲第五号証、第一四号証、第一七号証に照らし、右記載部分は誤記と認める。)、前記甲第一七号証によれば、昭和四八年九月から昭和四九年五月一六日までの治療費は合計金二万九八二六円となることがそれぞれ認められ、治療費の合計は金一六三万三三二六円と認められ、これを超えて合計金一六三万六五〇〇円を要したとする原告年子の主張を認めるに足る証拠はない。

また前記のとおり通院実日数は合計四五日であるところ、弁論の全趣旨とこれにより真正に成立したと認められる甲第一九号証によれば、その片道のバス代は金一〇〇円であることが認められるから、結局通院中のバス代としては金九〇〇〇円を要したと認められるが、これを超えて金九四〇〇円を要したとする原告年子の主張を認めるに足る証拠はない。

そうすると、治療費及びバス代として合計金一六四万二三二六円を要したこととなり、原告年子は同額の損害を蒙つた。

(五)  入院雑費及び付添費

前記のとおり原告年子は昭和四七年一二月一二日から昭和四八年八月七日まで二三九日間入院したが、その間の離費としては一日金四〇〇円と認めるのが相当であるから、合計金九万五六〇〇円の入院雑費を要したものと認められる。

また、被告会社に対する関係では成立に争いがなく、被告青木に対する関係では弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第一三号証によれば、原告年子は入院中の昭和四八年一月三一日までは付添看護を要する状況にあつたものと認められ、弁論の全趣旨及びこれにより真正に成立したものと認められる甲第一八号証の一、二によれば、原告年子は、このうち昭和四八年一月六日から同月三一日まで二六日間の付添費として訴外高橋トヨエに対して合計金七万三〇八八円支払つたことが認められる。

そうすると、入院雑費及び付添費としては合計金一六万八六八八円を要したこととなり、原告年子は同額の損害を蒙つた。

(六)  弁護士費用

弁論の全趣旨によれば、原告らは本件訴訟の遂行を弁護士に委任し、その弁護士費用は原告年子において負担する旨約したことが認められ、これに反する証拠はない。そして、本件訴訟の難易、後記認容額等諸般の事情を考慮すると、右弁護士費用として原告年子の主張する金三〇万円は相当と認める。

(七)  合計金二一一三万三七九〇円

3  原告公男、同光憲、同延英の損害(慰藉料)

右原告三名が芳信の子であることは、被告青木に対する関係では当事者間に争いがなく、被告会社に対する関係では弁論の全趣旨によりこれを認めることができる。そして、右原告三名が芳信の子として芳信の本件事故死により蒙つた固有の慰藉料としては、本件事故の態様、前記芳信と被告青木の過失割合等一切の事情を斟酌すれば、右原告ら主張のとおり、右原告一名につき各金二五万円をもつて相当と認める。

4  原告輝一、同トヨの損害(慰藉料)

右原告両名が芳信の両親であることは、被告青木に対する関係では当事者間に争いがなく、被告会社に対する関係では弁論の全趣旨によつてこれを認めることができるところ、原告年子本人尋問の結果によれば、右原告両名は芳信夫婦と同居し、同人らの収入により、その生活を維持してきたものと認められるので、同人の本件事故死により受けた右原告両名の精神的苦痛に対する慰藉料としては、本件事故の態様、前記芳信と被告青木の過失割合等一切の事情を斟酌すれば、右原告ら主張のとおり、右原告一名につき各金五〇万円をもつて相当と認める。

5  損害の填補

(一)  請求原因4の(五)の事実(原告年子の後遺症保険金二九五万円の受領)は当事者間に争いがない。

(二)  抗弁2の(一)ないし(三)の事実(芳信の死亡保険金五〇〇万円の支払、原告年子の傷害保険金五〇万円の支払、原告年子の治療費金二九万〇六九三円の支払)は当事者間に争いがない。

6  芳信の損害賠償請求権の相続

前記のとおり、原告年子は芳信の妻として、原告公男、同光憲、同延英は芳信の子として同人を相続した。

六  原告らの権利

(一)  芳信

前記のとおり、芳信の損害は合計金一二七七万二一七七円となるところ、このうち逸失利益及び破損農機代につき前記過失相殺をし、さらに前記支払のあつた金五〇〇万円を控除すると、次のとおり芳信は金五八一万七七四一円につき損害賠償請求権を有する。

(965万2177円+12万円)×0.8+300万円-500万円=581万7741円

(二)  原告年子

前記のとおり、原告年子の固有の損害は合計金二一一三万三七九〇円となるが、このうち慰藉料と弁護士費用を除いた金一四八三万三七九〇円につき前記過失相殺をし、前記のとおり支払のあつた合計金三七四万〇六九三円を控除すると、次のとおり原告年子は金一四四二万六三三九円につき損害賠償請求権を取得した。

(76万4776円+1225万8000円+164万2326円+16万8688円)×0.8+600万円+30万円-374万0693円=1442万6339円

よつて、原告年子は右固有の損害金一四四二万六三三九円に前記芳信の損害についての相続分金一九三万九二四七円を加算した金一六三六万五五八六円の損害賠償請求権を有する。

(三)  原告公男、同光憲、同延英

右原告三名は、それぞれ前記固有の損害金二五万円に前記芳信の損害についての相続分金一二九万二八三一円を加算した金一五四万二八三一円の損害賠償請求権を有する。

(四)  原告輝一、同トヨ

右原告両名はそれぞれ前記固有の損害金五〇万円の賠償請求権を有する。

七  結論

よつて、原告らの本訴請求は、被告らに対し、各自右各金員と、これに対する(但し、原告年子については弁護士費用を除く残金一四一二万六三三九円に対する)最終の訴状送達の翌日であることが記録上明らかな昭和五〇年一月一一日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める範囲内においては、理由があるからこれを認容するが、その余は失当として棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、九三条を、仮執行の宣言につき同法一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 岩井正子)

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